今年デビュー5周年を迎えたシンガーソングライターの片平里菜が11月14日に、自身初となるベストアルバム『fragment』をリリースした。これまでの楽曲を“かけら”に例え、それを大事に拾い集め1枚の絵にしたかのよう。この作品で彼女がどう思い、どうしたためてきたのかがうかがえる。そして、本作には大切に温めてきた「最高の仕打ち」を同作では唯一再録。同郷のTHE BACK HORNが参加するなど思い入れが強いものとなった。等身大の歌詞で支持を集める彼女。この5年を振り返ったときに見えてきた彼女の本質。温かみある歌の正体は郷土愛だった。【取材=木村陽仁、村上順一/撮影=冨田味我】
ラブソングを作ろうとしたきっかけ
これまでジャケット写真では避けてきた自身の「笑顔」が今回、使われている。何か心境の変化があったのだろうか。
――ジャケットの笑顔が印象的ですね。
片平「今まで笑顔をジャケットとして使ったことが無かったんですよ。クシャっとなった顔にあまり魅力を感じなくて、スタッフさんが選んでも全部『イヤだ』と言い続けていたんだけど、今回は笑顔が良いかなと」
彼女が作る多くのラブソングは「リアル」さがある。飾らずに、その時の感情をストレートに歌詞で表現する。それに対して、歌声は伸びやかで包み込むようだ。相棒のギターは、かき鳴らすときもあれば、撫でるように優しく奏でるときもある。その時々の感情を巧みに音で表現している。そうした彼女の等身大の歌詞、それを引き立たせる音は特に、同性からの支持が高い。
――前回のインタビューで、ラブソングで『嘘は書けない』と語っていましたけど、この5年間で恋愛観の変化はありましたか?
片平「探求はしていますね(笑)。今は、作品として納得出来れば嘘でも本当でもいいとは思ってます。去年は25歳で、25歳の当時の感情に忠実に表現することが面白いとは思っていたのですが。曲によって様々です。そういう価値観もかなり変わって来てますよね。デビュー当初は恋愛に気持ちは向かなくて。『女の子は泣かない』という曲もそうですが、人の話を聞いて、そこに感情移入をして自分の中で消化して曲にするというのが多かったんです」
――なぜ、ラブソングを作ろうと思ったんでしょうか。
片平「(福島から)東京に出てきて、ラブソングを書きたいなと思ったんです。それは家族愛でも恋愛でも友愛でも何でもそうなんですけど。親元を離れて次に何を求めるんだろうと思って。自分で新しい愛を探さなきゃと思って、誰かと過ごすことを求めるようになったので年齢とともに恋愛観は変わりました。最初は友達の話や妄想もありましたけど、大人になって自分の実体験も交えた曲が書けるようになりました」
――今の片平さんを見ると、とても充実しているように見えます。
片平「そうですね。今は好きなことばっかりできているし、ライブイベントも横のつながりや先輩からお話をいただいて自分でしっかり考えた上で出演しています。好きな人と関わっているのでそういう充実感はあるかなと」
――人は良くも悪くも人に影響されると思います。携わる人からパワーをもらう時もあれば、削られるときも。そういう人付き合いということを意識されますか?
片平「最近は特に人との関わりはすごく意識しています。10代の頃は人間不信もあったけど、もともと人間は好きだし、とにかく、自分がときめく方に行くようにしています。人との時間や出会いが栄養になればいいなと思うので。そういうことも音楽に影響していると思います」
郷土愛が強く、東日本大震災で被害があった街にライブハウスを作るプロジェクトにも参加している。ミュージシャン仲間も多く、人とのつながり、社会とのつながりを大事にしているようにも見える。
――今の社会や世の中についてどう思いますか。
片平「私は依存するのがあまり好きじゃないんですよ。男の人にも、家族に関しても。共存していかなきゃいけないのですが、そこにいて当たり前だと思ったり、甘えてはいけないなと。自立、自分を立することができるようになりたいなと思っていて。日本も独立しているようで、断ち切れない様々な根深い問題があると思うんです」
――片平さんは何か、芯が強いですね。このご時世、弱いから人を攻撃する、という風潮があるように見えます。それは愛を欲していることの裏返しなのではないかと。認めてもらいたいという。
片平「自分にとって何が大切なのか分かっていたら、他人を叩く必要も妬む必要もないと思います。自分の根っこに故郷や家族や帰る場所があって、受け継ぐものがあってアイデンティティーがあれば他人と比べる必要はなくなるのかなとは思います」
悩んでいた時期
――これまでの活動を、こういうベストアルバムという形で振り返ってみるといかがですか?
片平「今回はスタッフみんなと選曲して曲順も決めて、1曲1曲改めてしっかりと聴いたんです。『面白いこと言ってるなぁ』とか、『10代で意外に分かってるな、何も知らないくせに(笑)』とか思いましたね。私は音楽以外のことは、凄く飽きっぽいんです。一通りやりきるとすぐに飽きてしまうんです。だから、音楽でも毎回同じものは作りたくないと思っていて、曲調なども日々変化していると思います。ベストを聴くと改めてそういう部分もしっかりできているなと。
――「最高の仕打ち」からの「からっぽ」の流れはすごいですよね。
片平「1枚まるまる聴いて重くなるよりも、明日への活力になる方がいいなと思って。と言いつつ、『最高の仕打ち』からの『からっぽ』という最後は重ためなんですけど。それでも、温かさの残る曲順にできたと思いますね。
――「からっぽ」も初めはリアルというか、サウンドが重なっていって浄化されるというか。最後で良かったと思いました。
片平「『からっぽ』はどこに置けばいいか分からなくて、居場所が最後しかなかったんですよね。そうですね、最後以外居場所が無かった説が(笑)。何となくこういう気持ちで聴いてもらいたいとか、全部並べて聴いた時にスッキリしてもらいたいとか考えて並べました」
――そして、改めて「なまえ」の存在感が凄いということを感じました。
片平「うれしいですね。悩んでいた時期に書いた曲で、音楽活動しながらも人と比べてしまうし、そういう職業なのである程度しょうがないのですが。そうしていくうちに自己喪失して、自分が何であるか分からなくなってしまって。内に内にこもるようになって自分ってなにがあるのかなと文字を書いたりして考えて。最終的に、生まれてすぐの瞬間に親から名前というアイデンティティーを与えられたというところに行きつきました」
「なまえ」は、自身の幼少期を見つめて書いた楽曲だ。当時、片平はこう語っていた。
「この曲を書くまでに10カ月くらいのブランクがありました。その間、リリースできる曲というものにいまいちパッとしたものが無くて…。そのブランクの中で自分と向き合える時間があって、その間に自分の弱さなどに気付いて『もっと自分に自信を持ちたい』という欲望が強くなっていったんです。その中で、幼少期の事を思い返して書いた言葉や記憶が凄く自分の中で響いたんです」
「伝える」という事を大前提で考えて書いたのがこの曲であり、「音楽としての歌」ではなく「“歌”を歌いたい」と思えた曲だった。それは使用楽器にも現れ、自身の声とメロディを軸に作るため、アコースティックギターも使わなかった。そうした思いが曲のパワーになっている。
やさしさの根幹にある郷土愛
――今作で特に思い入れのある曲はありますか。
片平「今回は1曲だけ『最高の仕打ち』を再録させてもらったんですね。このチャンスにバンドアレンジをさせてもらって良かったです。当初はバンドアレンジでと思っていたのですが、1年くらい悩んだ末に肉付けすることが怖くなってしまって。毎回自分の推し曲としてライブでも披露していたし、自信もついたし、リスナーの方々にも浸透していたので。そこにどんな音が乗っても揺るがない強さ、パワーがついたと思いました。今ならアレンジできるなと」
――もともと、それだけ覚悟のあった曲だったんですか。
片平「そうですね。もともと思い入れのあった曲ですね。アレンジが声を殺してしまうこともあるので、それを一番避けたい曲でした。メッセージ性も強いし、自分が10代の頃にわだかまっていた感情がこの曲で昇華できたし、表現したいことも表現できたので」
――この曲はTHE BACK HORNさんが演奏しているんですよね。
片平「そうです。同郷で、すごく良くしてもらっていて。東京にいる時に福島の人間が一度に集まったので(菅波)栄純さんがいると特に福島弁が移ります。「~だっぺー」、「んだんだ」という感じで(笑)。居心地の良い先輩です」
――郷土愛ですね。
片平「福島から出て頑張っている人を見ると嬉しいです」
――私事ですが、生まれも育ちも東京なので郷土愛という感覚があまり分からないんです。
片平「東京の人はそこが故郷でも、次から次へと新しい人が来て変っていってしまうから、また全然違う感覚なのかもしれないですね。東京の方には『帰るところがあって羨ましい』と言われます。そう言われると、東京にいる間は寂しいけれど、帰る場所があるというのは強みなのかもしれないと思いましたね。
――故郷は母親のような場所だと思うんですよね。母性的なものと似通っていると。片平さんの歌の温もりの正体はそこに起因するのではないかと。
片平「嬉しいですね。全然意識してはいないですが、確かに故郷という言葉には温かみみたいなものがありますね。ありがたみみたいな」
――今までに色んなミュージシャンと共演されたと思うのですが、あえてTHE BACK HORNさんが演奏しているということで、その郷土愛のような温もりが感じられているのかなと思いました。
片平「どの曲にも言えるのですが、『最高の仕打ち』は特に余計なものはいらないなと思っていて。アレンジに関してもアレンジャーさんが巧妙に構築して、スタジオミュージシャンが立派に再現してくれると言うよりは、精神性で共鳴している人とやった方がいいなと。どうアレンジするかと考えていた時に(福島で開催される音楽フェスティバル)『風とロック』で共演させていただいた時のことを思い出したんです」
――それはどのようなことですか?
片平「そのフェスで私は怒髪天さんのライブを袖でひとり観ていて、その反対側に栄純さんがいて。私は『栄純さんいるな』と思っていたんですが、栄純さんも「里菜ちゃん観とるな」と思っていたらしく。今年の『風とロック』のテーマが『風とロック学園』だったので学生時代の先輩と後輩が意識しあいながら観てるみたいな感じになってて(笑)その時に、栄純さんが『また一緒になんかやりてぇな。レコーディングとかしてぇな』と言ってくださったんですよ。そのおかげで前にツーマンで『最高の仕打ち』を栄純さんがバンドアレンジして下さったことを思い出して、このタイミングだ! とお願いしました」
――ツーマンの時の感触も良かったんですね。
片平「人間臭さとか、男っぽい骨太さとかありつつ。でも彼らの曲は儚さも兼ね備えていて、この曲に合っているなと思って。お願いしたら、メンバーの皆さんも共感してくださって…」
裏テーマは女性のしなやかさ
――2年くらい前だったと思うのですが、ライブでマイクも通さずにアコギと地声だけで「最高の仕打ち」を披露されているのを聴いた時も感動しました。あれがかなり素の状態に近い状態だったと思うのですが、バンドアレンジをやったことによって曲に対する印象は変わりましたか?
片平「歌い方が全く違うんですね。それは、栄純さんに『ここは優しく歌った方がいい』『ここは地声で』という細かいところもディレクションしてもらって。弾き語りだと裏声も使わず、地声で張り上げる感じなんですけど、今回は裏声も駆使しつつ優しく歌っていて。何と言うか、マインドは女神感(笑)、許容するほうの気持ちに近いと言うか」
――確かに音源でもオリジナルはロック感が強いですが、今回はバンドアレンジながら歌声は優しくなっていますよね。それは菅波さんのアイデアもあってのことだったんですね。
片平「逆の対比もあったのかもしれません。男どもと張り合うというよりも女性としてのしなやかさみたいなものがあったほうが『グッとくるんでねぇか』と(笑)」
――アレンジに関して注文はあったのですか?
片平「1回ライブでもやっているので、信頼していて栄純さんにゆだねました。大体予想もついていたので。細かいことはレコーディング中に微調整しました。それくらいダイレクトで良いなと」
――それでは、レコーディングはスムーズにいったんですね。歌入れもあまりテイクは取らずに?
片平「レコーディング自体はスムーズでした。ただ、歌は結構録り直しましたね。裏声が得意ではなくて普段は歌わない歌い方だったので」
――その点はチャレンジングだったわけですね。では、その辺に注目すると新しい片平さんの魅力が見えてくるかもしれませんね。先程“女性としてのしなやかさ”というお話が出ましたが、今回のテーマは「女性らしさ」になるのかもしれませんね。自身としてではなく、周りから見た時に考えられるものとして、と言うことですが。
片平「この歳になるとそこからは逃れられないですよね。男か女か、子どもか大人かという偏見とか枠組みに捉らわれるのが苦しくて音楽に開放感を求めて私はやって来たので、いつまでも少年少女じゃいられないし、子どもを産むのは早い方がいいのかなとか、現実的なことにも向き合っていかないといけないし。女性らしくありたいとは思わないのですが、自分か女性であるということには向き合いたいと思っています。女性としてどう生きるのかというのは今からの課題だと考えています」
――タイトル『fragment』は、かけらと言う意味ですよね。曲たちが自分自身のかけらと捉えて良いのでしょうか。
片平「タイトルはみんなでアイデアを出しあって、『これだ!』と決めました。fragmentは『かけら』の他にも意味はあると思うのですが、キラキラと輝いている印象があったので。ぱっと見て明るい感じがいいなと。日本語にしようかとも思ったのですが、日本語は奥行があるので、深読みされるかもしれないと思ったので。5年経ってベストアルバムでここまで来たことがぱっと分かるように。ポジティブなイメージがついたらいいなと思って。環境を変えたりして色々と心配してくれる人もいたので、曇った印象はない方が良いなと」
――ジャケット写真の笑顔が全てを物語っていますね。今後が楽しみです。
片平「そうです。笑っていた方が良いなと」
――今後が楽しみです。もう曲は書いたりしているのですか? どういった作品ができそうですか?
片平「曲はいろんなジャンルに挑戦していて、楽しく迷っています。これもやってみたい、あれもやってみたいという感じで」
――最近はどんな音楽を聴いているのですか。
片平「何でも聴いていますが、今はソウルとかを聴いています。昨日はずっとベン・E・キング(米ソウル歌手)を聴いていました。歌うのがとにかく好きなのでブラックミュージックに憧れがあって。突き詰めると黒人の歌が凄いのでそれも好きだし、でもロックも大好きなのでどっちも行き来しながら聴いています」
(おわり)
