俳優の蒔田彩珠が、実写映画『ルックバック』(是枝裕和監督、9月11日公開)に不登校で引きこもりながらも、圧倒的な画力で藤野(出口夏希)を驚かせる京本役で出演する。本作は、是枝裕和監督が手がけたNetflixシリーズ『舞妓さんちのまかないさん』以来の共演となる出口夏希とのW主演で届けられる。幼少期から数々の是枝作品で才能を発揮してきた、まさに“是枝組”の申し子である蒔田が、その魅力を存分に発揮している。『ルックバック』は漫画を描くことへのひたむきな思いを通じて、2人の少女の絆と葛藤を描いた藤本タツキ氏による青春長編読み切り漫画が原作。物語の舞台となる秋田県にかほ市での長期ロケを敢行し、リアリティを追求した本作。インタビューでは、台本にない仕草やアドリブが散りばめられた、息遣いあふれる撮影現場の裏側を語ってくれた。原作の魅力をそのままに、スクリーンで京本というキャラクターが鮮やかに輝き出すまでの舞台裏に迫る。(取材・撮影=村上順一)
現場入りしてからもずっと漫画を練習していた

――完成した作品を観て、いかがでしたか。
作品はもちろん素晴らしいのですが、現場では藤野と京本の子ども時代を演じた七瀬ふうりちゃんと岡田六花ちゃん、二人のお芝居を見られなかったので、試写で初めて観て「とても可愛いな」と思いました。2人が頑張っていたのは知っていたからこそ、より感動がありました。
――漫画を描く練習は大変だったと思いますが、どのくらい取り組まれていたのでしょうか。
先生に教えていただいたのは、長くても1日3時間くらいでした。別のお仕事もあったので、そんなに日数は取れなかったので、たくさん課題をもらって自主練していました。定規を使って描く練習を何枚もやって、それを次のレッスンまでに持って行って――というのを繰り返したり、描いたものを写真に撮ってリモートで先生に見ていただいたりするのを4カ月ほどやっていました。秋田に行ってからも描いていて、泊まっているホテルの一室が漫画練習部屋になっていて、現場入りしてからもずっと練習していました。
――かなり上手くなったのでは?

定規の使い方や、トーンを貼るためのカッターの使い方も上手くなったと思います。
――漫画家さんへのリスペクトも高まりますね!
本当に漫画家さんってすごいです。今まで漫画を読んでいて、小さい一コマにも何時間もかけているということを知らなかったので、それから漫画を読むときの熟読感が変わりました。隅々まで読むようになりました。
――俳優さんは役を通して様々な職業を体験できるので、それぞれの職業へのリスペクトも多そうですね。
普通に生きていたら人生でそれほど経験できない職業を、役を通してたくさん経験できるのはとても楽しいです。どんな新しいことでもちゃんと取り組むので、それが後々趣味になることがあります。
――過去に『忍びの家 House of Ninjas』(Netflix)で忍者も演じられていましたが、それも趣味になりました?
『忍びの家』で初めてアクションに挑戦してから、アクションが好きになり、楽しくなりました。
手元の“カメラ寄り”はブルブル震えていた

――蒔田さんの京本を映像で見て、髪型も新鮮でした。
撮影に向けて髪の毛を伸ばしてパーマもかけて、京本らしくセットしていただきました。また、大人になってからも髪を一つに結っているところも、原作に近い髪型になったなと思います。
――まさに京本でした。クランクインから役に没入した感覚はあったのでしょうか。
撮影に入ったときから「私は京本だ」という感覚はありました。それに、方言があったのでそこにもだいぶ助けられました。喋り方が割と特徴的ではあったので、京本に入りやすかったです。
――その方言も練習されて。
はい。方言の音声データをいただいて、それを聞いて練習しました。現場にも秋田弁を教えてくださる先生が来てくださっていたので、教えていただきながら撮影を進めていきました。
――漫画、方言の練習など、とても大変な撮影だったんですね。
大変でしたが、「是枝監督とご一緒できるなら何でもやります!」という感じでした。
――是枝監督とお会いするのは久々でしたか。
プライベートで会うことはありますけど、作品で言うと『舞妓さんちのまかないさん』(Netflix)ぶりだったので、撮影は久しぶりでした。
――実写映画『ルックバック』はかなり前からお話があって、それがいま実現したとのことですが、その間も色々やり取りはあったんですか?
『ルックバック』の話は、最初に原作本をいただいてから正式なオファーになるまでは全くしていなかったです。事務所からオファーが来るよりも1日くらい前に、私に直で連絡が来たのを覚えています。是枝監督から「頼んだよ」って。事務所より先に伝えたかったみたいです(笑)。
――距離感がとても近いですね。完成報告イベントの時にも、本作の脚本について「原作が文字化した」というような表現をされていたのですが、是枝監督らしさを感じた演出などはありましたか。

京本はセリフが多くなかったので、普段現場で夏希ちゃんと話している時の仕草や癖みたいなのを監督が見ていて、「それいいね」となったものを取り入れることが多々ありました。
――藤野の幼少期を演じられた七瀬さんが台本なしで、是枝監督から口頭でセリフを伝えられたというエピソードもありましたが、蒔田さんも監督から口頭でセリフを伝えられた経験はありましたか?
私が出演した最初の2〜3作品はまさにそういう感じでした。
――そこから生まれる何かがあるんですよね。
はい。あらかじめ台本を読んでいないことによって、相手のセリフをしっかり聞かないと自分のセリフが思い出せないので、相手のセリフをより聞くようになります。セリフを覚えただけだと音として流れてしまうというか、どこか感情が乗っていないといいますか。台本を覚えてお芝居をするのとは、またちょっと変わる印象です。
――出口さんのお芝居に引き出される部分もあったり?
あります。やっぱり台本を読んだ段階で「いろいろこうしよう」と考えてしまうと、なかなか臨機応変に応えられなくなってしまうので、現場で夏希ちゃんがどんな藤野を演じるかで、自分の京本も変わると思っていました。
――アドリブによる演技もあったんですか。
特に漫画を描いているシーンの台本のほとんどはト書き(登場人物の動作や情景などを説明する文章)だけなので、その場でのお芝居もたくさんありました。
――絵を描くシーンは多々あるわけで、そこは注目してほしいポイントの一つですよね。
はい! たくさん練習したので、ちゃんと胸を張れる仕上がりにはなっているはずです。ただ、監督に見られていると思うととても緊張しました。手元の寄りとか、特にブルブル震えていました。
京本のキャラクターの本質、声の出し方を意識

――さて、蒔田さんが思う本作のマニアックな見どころはありますか?
京本が本屋さんで画集を見つけるシーンが2回出てきます。同じようなシーンなのですが、その2回とも実際に別々に撮っているので、その微妙な差を感じていただけたら嬉しいです。同じようなシーンだけど、違う雰囲気になっています。
――京本の変化は、どのように演じようと思いましたか。
時を重ねてちょっと自信はついているのかなと思ったので、声の出し方は意識していました。自分の意思を初めて藤野に伝える時も、けっこう距離がある中でしっかり声を張って、自分の気持ちを伝えられるようになった。そんな京本の姿は自分の中で特に意識したところで、原作を読んだ時からそのシーンが私の中で一番印象的でした。セリフもほとんど原作のままです。京本は全編通してそんなに多くを語らないタイプの子だったので、ここが京本のキャラクターの本質を一番見せられるシーンだと思って、撮影を楽しみにしていました。そこは自分の挑戦でもあり、それがクランクアップのシーンでした。
――ちなみにクランクインはどのシーンですか。

クランクインは、コンビニにコンテストの結果を見に行く雪の道のシーンです。真っ暗なところを夏希ちゃんと2人で、朝の4時くらい、日が昇る前に撮ったのですが、とても楽しかったです。撮影前に「誰もそこ歩いちゃダメ!」って言っていたのを覚えています。
――とても寒そうなシーンだなと思いました。
衣裳さんがちゃんと寒さ対策はしてくださっていたので、全然寒くなかったです。
――本作はお互いを鼓舞し合って成長していく物語だと思うのですが、そういった存在の方はいらっしゃいますか。
私は母と猫にだいぶ支えられています。母とは本当に仲が良くて、普段からずっと連絡を取り合っています。また、母はドラマとか映画が大好きなので、「これが面白かった」とか、おすすめとかも教えてくれます。
――蒔田さんの演技についてお話しされたりも?
もうベタ褒めなんです。すごく細かいところまで見て褒めてくれるので嬉しいです。それから、是枝監督とも連絡を取り合っています。監督と私が一緒の日は監督が私の写真を撮って、母に送ってくださって。「今日の彩珠です」みたいな(笑)。
――監督はお母様とも繋がっているんですね。最後に、この作品で気付いたことがあれば教えてください。
私はこの作品を通して、京本が「藤野ちゃんはなんで絵を描いてるの?」と尋ねたように、「私はなぜお芝居をしているのか」を考えるきっかけになりました。それは京本と一緒で「シンプルに好きだから」なのですが、今まで一度も考えずにここまでやってこられたのは、京本と同じようにひたむきにやってきたからなんだなっていうのに気づかせてもらいました。この作品を観た人が、自分の好きなことだったり、好きな人のことに対して何かを考えるきっかけになったら嬉しいです。
(おわり)
スタイリスト:Masako Ogura
ヘアメイク:Chika Ueno
作品情報

実写映画『ルックバック』 2026年9月11日(金)公開
出口夏希 蒔田彩珠
七瀬ふうり 岡田六花
野呂佳代 池田良 佐々木みゆ 山田真歩
宮藤官九郎/菅田将暉
原作:藤本タツキ「ルックバック」(集英社ジャンプコミックス刊)
監督・脚本・編集:是枝裕和
音楽:坂東祐大
撮影:上野千蔵 照明:西田まさちお 録音:冨田和彦 美術:小島伸介 装飾:田中宏 衣装:伊藤佐智子 ヘアメイク監修:勇見勝彦
スクリプター:田口良子 押田智子 キャスティング:田端利江 山下葉子 マンガ監修・指導・制作:藤村緋二 亀井賢史
助監督:中山権正 VFX スーパーバイザー:上田倫人 カラリスト:横田早紀 音響効果:長谷川剛 ラインプロデューサー:村岡伸一郎
製作:紀伊宗之 原作担当プロデューサー:林士平 配給:K2Pictures 後援:秋田県にかほ市
企画・プロデューサー:小出大樹
公式サイト URL:https://k2pic.com/film/lb/
©藤本タツキ/集英社 ©2026 K2 Pictures・集英社
