俳優の深川麻衣が、映画『逃げろお嬢さん』(10月2日より全国公開中)に出演。ある事件の渦中で行方不明となり、康太(井口理)の前に姿を現す元人気アイドル・鮎川舞子を演じる。「国宝」「横道世之介」などの小説家・吉田修一氏による短編小説『逃げろお嬢さん』(『逃亡小説集』所収・角川文庫刊)を原作に、『ひとりぼっちじゃない』『サイド バイ サイド 隣にいる人』の伊藤ちひろ監督が映画化した『逃げろお嬢さん』。本作で描かれるのは、「一億総推し時代」と言われる現代において、自分の人生を照らしてくれた“推し”を信じ抜こうとする男の切なくもあたたかい物語。親の温泉宿を継いだ主人公・康太を演じるのは、映画主演2作目となるKing Gnuの井口理だ。乃木坂46の卒業からちょうど10年という節目を迎える深川麻衣。かつてトップアイドルとして駆け抜け、現在は俳優として確かなキャリアを重ねる彼女が、“アイドル役”と向き合った注目作だ。アイナ・ジ・エンドが手掛けた振付エピソードから、劇中歌『パレット』に込められた切なさ、共演・井口理の意外な素顔、そして自身のアイドル時代の葛藤と重なる「言葉とイメージの怖さ」まで話を聞いた。(取材・撮影=村上順一)
卒業から10年目――巡り合わせの中で掴んだ「アイドル役」

――乃木坂46を卒業されてから、ちょうど今年で10年という節目を迎えますね。このタイミングで「元アイドル役」の作品が公開されることについて、どのように感じられましたか?
作品を撮っていたのは実は2年以上前だったのですが、作品が完成してこうして公開されるのがちょうど卒業10年目に重なるんだと気づいた時は、すごく面白い偶然であり、素敵な巡り合わせだなと思いました。
――脚本を初めて読まれた際の印象はいかがでしたか?
とても面白かったです。前半は主人公の康太と舞子の噛み合わないやり取りがとてもコミカルでクスッと笑えるのですが、後半にかけてグッと胸に刺さるセリフが出てくるんです。そのシリアスさとコミカルさの塩梅が心地よくて、一気に惹き込まれました。
――俳優として10年近く活躍される中で、深川さんならではの「台本の読み方」やアプローチの変化はありますか?
他の方と比較できないので自分流かどうかは分からないのですが、基本的には1回目に読む時は自然と映像を思い浮かべながら、全体の空気感や雰囲気を想像しています。そして2回目、3回目と読み込むうちに、「こういう動きや表現もできるかもしれない」というアイデアや選択肢を頭の片隅に1つ、2つ用意しておくようにしています。
グループ卒業後以来の本格ダンス――アイナ・ジ・エンドとのタッグ

――今作では劇中の歌番組シーンのために、本格的なダンスの練習にも取り組まれたそうですね。
そうなんです!グループを卒業して以降、あそこまでしっかりとアイドルとして踊ったのは初めてなので、頑張らなければと気合いを入れて臨みました。
――劇中で流れる楽曲『パレット』の振付はアイナ・ジ・エンドさんが担当されていますが、直接指導も受けられたのでしょうか?
はい、直接お会いして振り付けしていただきました。アイナさんは私の体の動きの癖までしっかりと見てくださって、「じゃあ、もうちょっとこうしてみようか」とその場でリアルタイムに調整してくださったんです。すごく分かりやすくて、可愛い振り付けをつけてくださいました。
――特に注目してほしい振り付けのポイントはありますか?
アイナさんが「ここで(ファンの心を)落とそう!」とおっしゃっていた、最後の“猫みたいなポーズ”です。より一層可愛らしさが詰まっているので、ぜひ注目して見ていただきたいです。
――伊藤ちひろ監督が作詞を手掛けた劇中歌『パレット』。深川さんはこの曲をどう受け止めましたか?
明るくポップで、一度聴くと耳に残るすごく魅力的な楽曲です。撮影前にも「舞子が最も輝いていた時期を象徴するシーン」だと伺っていたのですが、今の舞子が置かれている絶体絶命の状況と対比されると、明るければ明るいほどどこか切なくも聞こえてきます。でも、その輝かしい映像と楽曲が映画のエンディングで流れることで、「これからの人生がきっと前向きに肯定されていくんじゃないか」と思えるような、静かな希望が残る曲だと思いました。
――歌唱シーンは最初ワンフレーズの予定が、フルサイズに変更されたとお聞きしました。
そうなんです!最初はワンフレーズと聞いていたのに、蓋を開けたら立派な楽曲とダンスが完成していて「これは本当にやばいぞ!」と焦りました(笑)。でも、私をずっと応援してくださっているファンの方が観た時に、どうしても過去の自分と重ね合わせる部分があると思います。だからこそ、ファンの方の夢を壊したくないですし、がっかりさせたくないという個人的な想いもありました。
井口理の意外な素顔と、作品に潜む「リアルな恐怖」

――共演された井口理さん(King Gnu)の印象はいかがでしたか?
撮影期間自体は短かったのですが、最初はKing Gnuとしてのアーティストのイメージを持っていたので、実際に接してみて180度印象が変わりました。本当にピュアで、温厚な雰囲気をお持ちの方で驚きました。撮影中も伊藤監督とワンシーンごとに丁寧に話し合いを重ねながら康太という役を突き詰めていらっしゃって、ものづくりに対する実直さに感動しました。
――さて、深川さんが演じた舞子と共感する部分はありましたか?
舞子が康太に対して「自分を知らない人が勝手にイメージを膨らませたり、誤解されたりするのが怖い」と弱音や本音を吐露するシーンがあるのですが、そこは一番強く共感しました。特にグループで活動していた頃は、「〇〇キャラ」といった分かりやすいイメージが一人歩きして膨らんでいってしまうことや、一部だけを切り取られた情報が世間の事実として受け止められてしまう怖さを感じたことがあるので、演じていて気持ちが重なりました。世間の評価や枠にとらわれず、ただ真っ直ぐに自分を信じてくれる存在がどれほど救いになるかということを、身をもって実感しました。
――深川さんだからこそ知る本作の「マニアックな見どころ」を教えていただけますか?
康太が薪割りをしながらラジオを聴いているシーンに注目してほしいです。康太の後ろで浅香航大さんが「クマが出た!」と勘違いして、斧を持って対処しようと一人警戒体制をとっているシュールな姿が見どころです。浅香さん井口さんも薪割りが得意らしくて、斧さばきが見事なので、ぜひ注目してみてください。
――最後に本作を楽しみにされている方へ一言お願いします。
この映画は何か大きなものを持ち帰っていただきたいというよりも、皆さんの自分にとっての大切な人、物、場所などを思い出して持って帰っていただけたら幸せです。
(おわり)
作品情報

『逃げろお嬢さん』
全国公開中
出演:井口理(King Gnu)、深川麻衣
浅香航大、河井青葉、田中偉登
原作:吉田修一「逃げろお嬢さん」(『逃亡小説集』所収・角川文庫/KADOKAWA刊)
監督・脚本:伊藤ちひろ
配給:NAKACHIKA
©2026 吉田修一/KADOKAWA/In Her Room
