メジャーデビュー10周年を迎えたシンガーソングライターのNakamuraEmiが、10月7日にメジャー8枚目となるアルバム『PATCHWORK LIFE』をリリース。前作『KICKS』から約2年4カ月ぶりとなる本作は、出会いや別れ、仕事、友情、そして大切な存在との永遠の離別――彼女の人生のグラデーションが、まるで幾重もの布を丁寧に縫い合わせたパッチワークのように鮮やかに刻まれた一枚だ。プロデューサー・カワムラヒロシと共に全精力を注ぎ込んだという全10曲。なぜ今、彼女は「生と死」という究極のテーマに自然と行き着き、自らの最も痛々しい記憶までをも音楽へと昇華できたのか。制作期間中の濃密なインプットから、アルバム各曲に秘められた知られざるドラマまで、その胸中に迫った。(取材・撮影=村上順一)
対バン、言葉集め『PATCHWORK LIFE』の裏側にあるインプット

――前作『KICKS』のリリース以降、FMヨコハマでのレギュラー番組『ふらっと、道草』パーソナリティをはじめ、様々な対バン企画など精力的な活動が続いていました。この制作期間中、どんなエンターテインメントや音楽に触れ、刺激を受けていたのでしょうか?
ラジオ番組(FMヨコハマ『ふらっと、道草』)で毎週テーマに合わせて選曲させていただく中で、本当に幅広いジャンルの新しい音楽に出会えたことがすごく大きかったです。それと、この1年で対バンさせていただいたアーティストの方々の楽曲を、過去作品まで遡ってじっくり掘り下げて聴く機会も多くて。ライブでのマッシュアップ企画の選曲のために全曲聴き込んでいくと、「あ、この時期からこの人の音楽はこう変化していったんだ」といった根っこの部分が見えてくるんですよね。過去10年間を振り返っても、ここまで他の方の音楽に密に向き合ったことってあまりなかったので、間違いなく私自身のクリエイティブに強烈な刺激と栄養をもらいました。
――映画や日常の会話など、音以外のインプットはいかがでしたか?
映画館は行ける時に行きますし、家や車移動の時には「言葉探し」として映画を流しっぱなしにしていました。画面をじっくり見られない時でも、セリフ(言葉)の音だけを耳で拾って頭の中で映像を想像するんです。あとは街中の看板や本、CMで流れるふとしたフレーズにもすごく敏感になっていました。
――そうして書き留めたフレーズを、楽曲へと落とし込んでいくわけですね。
はい。インディーズ時代から15年以上書き溜めてきたパソコンやノートの膨大なメモを遡って、「このテーマで書きたい」と決まった時に言葉を引き抜いていく作業をしています。前作『KICKS』の時は、その生々しいメモ帳を初めてプロデューサーのカワムラ(ヒロシ)さんに見せて共作する試みをしましたが、今回はあらかじめ私の作り方やメモの空気感をカワムラさんが理解してくれていたので、自分で言葉を吟味しながら制作を進めていきました。
全10曲で描かれる一筋の物語――辿り着いた「生と死」のリアル
――アルバム『PATCHWORK LIFE』を拝聴して感じたのは、楽曲ごとのクオリティの高さはもちろんのこと、1曲目から10曲目までがひとつの大きなストーリーとして繋がっているような、アルバムというフォーマットならではの圧倒的な完成度です。
そう言っていただけてすごく嬉しいです。今は1曲単位でストリーミング再生されたり、聴き手がプレイリストを自由に組む時代ですよね。でも今回は、意図してコンセプトを固めたわけではないのに、自然と全10曲が1本のスジで繋がった「1枚として聴いてほしいアルバム」になりました。
――自然発生的にその完成度に辿り着いたというのは興味深いです。どのようなプロセスがあったのでしょうか?
アルバムの制作に入る前に、厚木市シティプロモーションオフィシャルソング「MICHIKUSA」で地元・厚木への思いを書き、地元での凱旋ワンマン(厚木市文化会館)で「デイジー」を通して10年間の感謝を届けることができました。そして2026年1月のUVERworldさんとの対バン(『背負い投げ 4本目』)に向けて「UBU」を書き下ろし、ミュージシャンとして全力を注ぎ切った感覚があったんです。その大きな山を越えた後、自分の中に残っていた最もクリアで嘘のない感情が、人間として絶対に避けては通れない生死に関することでした。
――そこに素直に向き合って集まった楽曲たちだからこそ、自然と深みのあるコンセプトアルバムのような佇まいになったんですね。
前作『KICKS』を作った時も「これ以上のアルバムは作れない」と思いましたが、今回も「もしこれが最後のアルバムになっても後悔がない」と言い切れる作品になりました。
歌詞が二転三転した「PATCHWORK LIFE」

――アルバムのタイトル曲でもある「PATCHWORK LIFE」ですが、人の縁や人生の歩みを「縫い合わせる」といった言葉で表現されている世界観は、どこか中島みゆきさんの名曲「糸」にも通じるような、温かくも深遠な人間讃歌だと感じました。
ありがとうございます! 実は私自身、この曲の歌詞を書くにあたって言葉がなかなか決まらず、何度も何度も書き直す中で、中島みゆきさんの楽曲をたくさん聴いていました。この曲は今回のアルバムの中でも特に歌詞が二転三転した楽曲だったので、そう言っていただけるとすごくハッとしますし、とても嬉しいです。
――裁縫やパッチワークというコンセプトは、Emiさんのお母様やカワムラさんのお母様が裁縫がお好きなところから着想を得たそうですね。
そうなんです。私の母が昔から裁縫好きで、カワムラさんのお母様も刺繍の先生をされていて、2人とも幼い頃から身近に「裁縫」がある環境で育ってきた背景がありました。布を縫い合わせたり、まっすぐ縫っていたつもりがものすごく曲がってしまったり、糸が絡まって解けなくなって切るしかなかったり……。そういう裁縫の日常的な作業や手元の感覚って、人間の縁や人生観とすごく似ているなと気づいたんです。
――歌詞の中の<チクチク曲がったり間違えたり><切って縫って a whole new world!>といったフレーズには、失敗や遠回りさえも受け入れて自分の人生を愛していく、たくましい美学を感じます。
人生ってずっとまっすぐ綺麗に進むことばかりではないですし、時には糸が解けたり、ほつれたり、切るしかない場面もありますよね。でも、解けたところを切って、また新しい布を縫い合わせれば、色も形もいくらでも自由自在に新しい世界を作ることができるんです。デビューから10年、44年分の成功も失敗も全部チクチク縫い合わせて、自分だけの「オリジナルな人生」を作っていけばいいんだと思えるようになったことが、この曲のメッセージに繋がっています。
一目惚れしたトラックから生まれた「幕開け」
――アルバムの1曲目を飾る「幕開け」は、スリリングで重厚なトラックと力強いリリックが印象的な楽曲ですね。
この曲は、カワムラさんが作ってくれた5つのトラック(ワンコーラスのデモ)の中で、私が一番一目惚れしたトラックでした。カワムラさんは「ライブのSEからそのまま一曲目に突入できるようなイメージで作った」と言っていて。私もステージに立つ前はいつも激しい緊張や不要なエゴ、恐怖心と戦っているのですが、この曲の言葉を歌うとスッと腹が括れるんです。冷たい視線や失敗の怖さ、自分の中の邪魔なエゴを全部食べて飲み込んで、自分の「血となり肉となれ」という衝動から生まれた歌詞です。
――あの太いビート感とグラマラスなグルーヴは、ローリン・ヒルのような感覚もありました。
まさに私、高校時代からローリン・ヒルを聴きまくって育った「ローリン・ヒル育ち」なんです(笑)。最近現場でご一緒するミュージシャンにもヒップホップシーンの方が増えて、その熱いエネルギーに触発されたこともあり、今作はよりヒップホップやR&Bのテイストを前面に出したいという思いがありました。その欲求とカワムラさんのトラックが見事に一致したのが「幕開け」です。
――楽曲のバックで聞こえる英語のセリフには、どんなメッセージが込められているのですか?
あれは「今日ライブに来てくれてありがとう。一緒にこの時間を過ごせて幸せです」という感謝の想いを英語で話したものを、あえて聞き取れないくらいぼかしてミックスしてもらいました。
――先行配信シングルでもある「今夜cruise」は、どんなことを意識して制作されましたか。
ラジオ番組(『ふらっと、道草』)を通して様々な世代の方の人生観に触れる中で、「仕事が恋人」だったり、恋愛だけに固執しない大人のしなやかな人間関係の面白さに辿り着きました。ドラマのオープニングになりそうな曲を意識していましたね。恋愛なんですが、<図鑑に載ってない私の心 めくってめくって>という歌詞など、自分らしい落とし込み方ができたと思っています。この年齢だからこそ、「恋愛と言われても……」みたいな部分はありますし、20代の頃のように勢いに任せて突き進むだけではなく、「冷静と情熱の間」を楽しめる40代ならではの空気感が出た曲になったと思います。
――恋愛といえば、タロット占いで死神のカードが出たとお聞きしました。
2回占ってもらったんですけど、仕事運は花丸だったのに、恋愛運で「死神」のカードが出て大爆笑しました(笑)。その中でわかったのは、私は50代になったら結婚できるらしいということです。
「終わらないで」と願う光と希望――1stリード曲「呼吸」に込めた言葉の推敲

――アルバムの先行リード曲である「呼吸」は、命の限りのある時間と、大切な人を想う切実な感情が描かれた楽曲です。歌詞の切なさに対して、トラックには温かみと前向きな光を感じます。
この曲の原形を作っていた時、私の周りで余命宣告を受けた方や、そのパートナーとして一生懸命支えている方が何人もいらっしゃったんです。当事者の気持ちは分からなくても、残される側、支える側の葛藤や「元気に側にいたい」という願いは痛いほど分かる。死という重いテーマと向き合うからこそ、サウンドやメロディには光や希望が必要でした。
――特にDメロの<終わりがあるから 美しいだなんて 美しくなくていい 終わらないで>というフレーズは、聴く者の胸を強く打ちます。
ありがとうございます。「終わりがあるからこそ美しい」という美学もわかるけれど、大切な人にはただ生きていてほしい、終わらないでほしいというのが本音ですよね。最初はもっと説明的で重たい歌詞だったのですが、毎日毎日歌詞と向き合い、削ぎ落として辿り着いたのがこのフレーズでした。
――朝目覚めて交わす「おはよう」という何気ない言葉の重みなど、聴く人それぞれの人生に寄り添う懐の深さがあります。
デビュー当時の『NIPPONNO ONNAWO UTAU』の頃は、鋭くピンポイントで刺す言葉が多かったですけれど、アルバム『Momi』以降、自分の言葉の間口を広くして、聴いてくれる方の日常や心の中に想像を巡らせる作業をすごく大切にするようになりました。苦しいテーマですが、朝起きて大切な人の呼吸が聞こえる奇跡や愛おしさを感じてもらえる曲になれば嬉しいです。
――アルバム5曲目の「エステみてぇだな」は、お父様との別れと感謝を綴った楽曲です。タイトルもとても印象的ですね。
7年前、父が亡くなった当時はショックが大きすぎて、ノートに書いた父に関する3ページほどのメモを開くことすらできませんでした。見ると涙が止まらなくなってしまうので、私の中で長年触れられない「ブラックボックス」になっていたんです。当時は『東京タワー』という曲で精一杯でした。
――その固く閉ざされていた扉が、なぜ今開いたのでしょうか?
大きなきっかけがふたつありました。ひとつは、地元・厚木文化会館での凱旋ライブで、家族や親戚の前で自分の全てをさらけ出せたこと。もうひとつは、今年1月のUVERworldさんとの対バンという、私にとってものすごく高い壁を乗り越えられたことです。そのふたつの大きな経験を経て、「今なら書けるかもしれない」と胸につかえていたものが柔らかく溶けて、今年2月に一気に書き上げることができました。
――タイトルになっている「エステみてぇだな」という言葉も、実際の会話から生まれたものなんですよね。
父の在宅介護をしていた頃、お風呂上がりに父の背中に化粧水を塗ってあげていたんです。その時に父が低い声でポツリと言ったのが「エステみてぇだな」でした。病床でも冗談を言って笑わせてくれた父のその言葉がずっと心に残っていて。重いテーマだからこそタイトルはこれしかないと思ったのですが、カワムラさんやスタッフに伝えたら「嘘でしょ!?」と驚かれました(笑)。でも、私の生々しい日常と愛がそのまま詰まった、私らしいタイトルになったと思っています。
10年越しの記憶と仲間への愛――「去年一番泣いた日」と「RIBBON」

――6曲目の「去年一番泣いた日」は、10年ほど前に作られた楽曲だと伺いました。
3日間布団から出られずに泣き明かした、その時の衝動をそのまま歌にしたのがこの曲です。当時は生々しすぎて発表できませんでしたが、10年の時を経て客観的に向き合えるようになり、今作の素直で温かいピースとして収録することができました。
――続く7曲目の「RIBBON」は、一転して非常に祝福に満ちたウエディング・ナンバーですね。
デビュー以来10年間、私たちのライブ音響(PA)を支え続けてくれている大切な仲間の結婚式のために書き下ろした楽曲が原曲になっています。これまでも知人の結婚式のために曲を書くことはたくさんありましたが、今回は「パートナー」や「相棒」といった、人生で大切な宝物に出会えた奇跡を普遍的に歌えるよう歌詞を磨き上げました。カワムラさんによるバグパイプのアレンジも素晴らしくて、やっと皆さんの結婚式や特別な日に使っていただける曲が完成したなと思っています。
――そして、アナログ盤(LP)のジャケット写真はセルフシャッター風で素敵ですね!
そうなんです! 自宅っぽい雰囲気にしたかったのと、モノクロはずっとやりたかった表現で、それが形になりました。
――10周年という大きな節目を越えて、これからの5年、10年に向けた未来の展望をお聞かせください。
まずは何よりも、歌い続けられる「心と体と喉」を自分自身でしっかり保っていくことです。そして、育ててくれた地元・厚木へ音楽で恩返しをしていくこと。素晴らしいミュージシャンの仲間たちを厚木に連れて行って、地元の方々に喜んでもらえるイベントを作っていきたいです。そしてもうひとつ、10周年を迎えて自分の立ち位置が分かったからこそ、いつか「日本武道館」という大きなステージに立てるようなシンガーを目指して、一歩ずつ進んでいきたいと思っています。
――全国14箇所を巡るリリースツアー『PATCHWORK LIFE Release Tour 2026〜2027』も控えています。生でこれらの楽曲を聴けるのが今から楽しみです。
カワムラさんと2人で巡るDuoスタイルと、バンドスタイルの両方で全国を回ります。まだどんなライブになるのか私自身も未知数ですが、自分の人生のリアルや、これまで避けて通っていた痛みに素直に向き合えたからこそ、ライブ会場で皆さんと直接音を交わせることが楽しみでなりません。ぜひアルバムを聴き込んで、会いに来てください!
(おわり)
作品情報
NakamuraEmi Major 8th Album『PATCHWORK LIFE』
2026年10月7日(水)Release

■形態
・【CD】COCP-42742 / 3,800円(税込)※紙ジャケット仕様
・【LP】COJA-9612 / 5,500円(税込)
・【CMS限定盤(CD+Tシャツ)】7,600円(税込)
・【CMS限定盤(LP+Tシャツ)】9,300円(税込)
■収録曲(全10曲)
01.幕開け
02.今夜cruise
03.呼吸
04.PATCHWORK LIFE
05.エステみてぇだな
06.去年一番泣いた日
07.RIBBON
08.MICHIKUSA
09.デイジー
10.UBU
■ツアー情報
NakamuraEmi 『PATCHWORK LIFE Release Tour 2026〜2027』
【Duo Ver.】 Vo.NakamuraEmi / Gt.カワムラヒロシ
2026.10.31(土)神奈川・神奈川BLUE Enoshima OPEN 15:15 / START 16:00
2026.11.1(日)群馬・前橋DYVER OPEN 17:00 / START 17:30
2026.11.6(金)京都・京都FANJ OPEN 18:30 / START 19:00
2026.11.7(土)岐阜・柳ヶ瀬ants OPEN 17:30 / START 18:00
2026.11.14(土)北海道・札幌近松 OPEN 17:30 / START 18:00
2026.11.21(土)新潟・新潟ジョイアミーア OPEN 17:30 / START 18:00
2026.11.22(日)宮城・誰も知らない劇場 OPEN 17:00 / START 17:30
2026.11.28(土)三重・四日市CLUB CHAOS OPEN 17:30 / START 18:00
2026.12.5(土)福岡・福岡DRUM Be-1 OPEN 16:30 / START 17:00
2026.12.19(土)香川・高松DIME OPEN 17:30 / START 18:00
2026.12.20(日)広島・広島Live space Reed OPEN 17:00 / START 17:30
【Band Ver.】
2027.1.9(土)大阪・梅田CLUB QUATTRO OPEN 17:00 / START 18:00
2027.1.10(日)愛知・名古屋CLUB QUATTRO OPEN 16:00 / START 17:00
2027.1.17(日)東京・Zepp Shinjuku OPEN 16:00 / START 17:00
